JPINS/文 閉幕したばかりの北京冬季オリンピックでは、水素エネルギーが最も際立ったシーンの一つとなった。冬季オリンピックのトーチに初めて水素ガスが燃料として採用され、冬季オリンピックの期間中、816台の水素エネルギー電池自動車が輸送サービスの主力として活躍した。冬季オリンピックは中国における水素エネルギー発展の里程標であり、中国において水素エネルギーの発展が本格的に加速し始めたことを意味しているというコメントが寄せられている。

中国が打ち出した政策の過程からもこの傾向が見て取れる。2019年に水素エネルギーが初めて政府活動報告に記載され、2020年には「中華人民共和国エネルギー法(意見募集稿)」に初めて水素エネルギーがエネルギーの範疇に列挙された。2021年3月、水素エネルギーは正式に「第14期五カ年計画」の計画要綱に加えられた。2021年12月、工業情報化部が通達した「『第14期五カ年計画』工業エコ発展計画」で、水素エネルギーの技術革新とインフラの建設を加速し、水素エネルギーの多面的な利用を推進することが提起された。大まかな統計によると、現在、全仲国における30の省、150以上の都市が、それぞれの第14期五カ年計画において水素エネルギーの発展を提起しており、50以上の都市が地方における水素エネルギー産業の発展に関する特定事業計画を打ち出している。

中国が水素エネルギーの発展を加速する理由は日本と似ている。中国における石油の75%は輸入に頼っており、天然ガスの50%以上が輸入に依存している上に、輸入が占める比率が年を追うごとに増大している。2020年9月に中国は2030年に「カーボンのピークアウト」を迎え、2060年に「カーボンニュートラル」を実現するという目標を掲げており、炭素削減からエネルギーの安全までの見地から考えても、新エネルギーの発展促進に全力を注ぐことは、当面の急務だ。中国は石炭資源が豊富であり、石炭のガス化はコストが安いため、現状として最も主要なガスの供給源となってことから、中国で水素エネルギーが発展の重要な方向性となっているのは当然と言える。

中国の水素エネルギー産業における発展の加速は、日本企業にとって中国市場での大きなチャンスを意味する。周知の通り、日本はこれまでずっと世界の水素エネルギー分野を牽引し、日本の水素エネルギー関連の特許は世界の30%以上を占めており、世界でトップに立っている。日本企業は世界の水素エネルギー電池技術の特許の83%を有しており、日本のトヨタ、ホンダ、日産、パナソニック、東芝などの企業は世界の水素エネルギーおよび燃料電池技術の模範であり、イオン交換膜燃料電池や燃料電池システム、車載水素貯蔵の三大基幹技術において、日本と米国の特許は世界市場の50%以上を占めている。これらの先進技術は中国が水素エネルギーを産業に応用する上で不可欠であり、中国は可及的速やかに日本企業と幅広い協力を行う必要がある。

将来性が非常に高い中国の水素エネルギー自動車市場

事実上、中日企業による水素エネルギー分野での協力は既に始まっている。現在最も注目されているのは水素エネルギー自動車分野だ。

電池動力自動車は中国市場で今すでに主流になっており、川上・川下の産業チェーン全体で成熟しつつあるとはいえ、水素エネルギー自動車は環境保護と利便性の面でとても大きな優位性があり、長期的に見て、技術やコスト、産業の一本化などの問題が徐々に解決されると、水素エネルギー自動車が今後の主流になる可能性があることに中国政府も企業も気づいている。

中国は整備された重化学工業の産業チェーンを有しているため、水素製造において持ち前の産出量とコストの優位性を持つ世界最大の水素産出国だ。中国はさらに世界最大の自動車と新エネルギー自動車市場を有し、一般向け自動車以外に、鉱山・港湾の大型車、配送車両、ディーゼル自動車、軌道交通、船舶および陸上電力装置、航空機はいずれも今後の水素エネルギーイノベーションの応用対象であり、中国はすでに大規模な水素エネルギーを利用するだけの水素供給条件と市場の余地を有している。

同時に、中国は政府の力で大掛かりに応用を推進することによって産業の発展を促すことに長けているが、それは中国がどのように電動自動車を推進してきたかを見れば分かることだ。中国政府は2009年から2012年にリチウム電池自動車の「十城千輌(毎年10都市を発展させ、各都市で1000台の電動自動車を投入する)」モデル推進政策を開始し、テスト地点での効果を通じて、電動自動車は2018年に販売台数が急増し、77万7000台から125万6000台に跳ね上がった。Canalysが発表した報告によると、2021年に中国における電動自動車の販売台数は320万台に到達し、世界の販売台数のほぼ半分を占めたという。

トヨタも水素エネルギーの可能性に気づいたと見られる。2018年、中国の李克強総理は訪日して北海道にあるトヨタ自動車の工場を見学したときに、同社の水素エネルギー自動車に強い関心を示したという。後に、トヨタは中国で水素エネルギー自動車の協力を開始し、2019年4月にトヨタ自動車は北汽福田自動車、北京億華通科技公司と提携し、水素エネルギー電池のバスの製造において協力することになり、トヨタは水素燃料電池(FC)構成部品を提供し、億華通はFCシステムを提供した。同年7月、トヨタは一汽股份と蘇州金龍に水素燃料電池部品を提供すると発表した。

現在、トヨタは中国の水素エネルギー市場で初歩的な成果を上げることができた。今回の冬季オリンピックで、トヨタは水素エネルギーのスポークスマンとして注目を浴び、冬季オリンピックでの水素エネルギーバスの主力だった北汽福田欧輝のバスはトヨタとの協力で生産された車両であり、トヨタはさらに自社の247台の水素燃料自動車を競技へのサービスに用いており、それにはトヨタが初めて中国で大規模に投入したFCEV(水素燃料エンジン)「次世代MIRAI」や冬季オリンピックのために開発された「FCコースター」の2つの水素エネルギー自動車モデルが含まれる。

中国と日本はどの方面で協力を強化できるか

水素エネルギー自動車は注目を集めているとはいえ、現在水素エネルギーの関連産業において、より重要かつ差し迫った必要があり、潜在的なチャンスがあるのは、水素エネルギー製造および運送と貯蔵である可能性があり、これらは水素エネルギー産業全体の発展における前提と基礎だ。

現在、中国の水素生産量は世界の約1/3を占めており、中国は世界最大の水素生産国だが、それは主に石油化学や石炭から生成された「グレー水素」であり、「ブルー水素」や「グリーン水素」の分野はまだ手つかずの状態だ。中国の豊富な風や太陽光、水などの再生可能エネルギーをいかに活用して水素を生産するか、この面に非常に大きな市場の余地がある。

日本は長年にわたって太陽光エネルギーによる水素ガスの製造を主要な発展の方向性としており、技術面で中国よりも先を行っている。中国は大きな再生可能エネルギーの開発能力や「ブルー水素」と「グリーン水素」に対する差し迫った市場ニーズを有するのに対し、日本企業は先進的な技術を有しているため、両者が協力できる余地は非常に大きい。中国は日本企業の技術的応用のための市場というだけではなく、同時に日本の水素エネルギーの発展のために資源を提供することができる。日中金融協会の理事、常務副会長を務める宮里啓暉氏は『第一財経』から取材を受けた時に、日本がオーストラリアやブルネイといった遠方から水素エネルギーを運搬するのに比べて、中国の沿海都市から日本に水素エネルギーを運ぶコストは、オーストラリアからの送料の半分だと述べた。宮里氏は中日の協力により、水素の製造と貯蔵のコストを下げられるという自信を示している。

中国が水素エネルギーの発展を加速させることは、日本企業さらには日本の経済全体の未来にとって絶好のチャンスとなる。しかし、現在トヨタなど少数の企業を除いて、それを十分に意識している企業はまだあまり多くないようだ。

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