『必読』ダイジェスト 価格の過当競争と長い決済期間は、中国のビジネス環境における2つの「悪性腫瘍」であり、近年、この「悪性腫瘍」並びに弊害はますます大きくなっており、抑えなければならない。


価格競争といえば、多くの人はまず低価格のモノが並ぶ電子商取引(EC)プラットフォームを思い浮かべるだろうが、価格競争をしているのはECだけではない。宅配、外食から家電、自動車、太陽光発電、セメント、「ハイエンド」のクラウドコンピューティングの大規模モデルに至るまで、価格競争はどこにでもあり、しかも一度始まると終わりがない。価格競争は巨大な渦のようで、個々人が望むと望まざるに関わらず、巻き込まれてしまう。


巻き込まれた結果は何だろうか。スパイラル式のデフレ、自らが強化した消費のダウングレード、産業の高度化が遮断または後退し、経済全体が「中所得の罠」に陥って抜け出せなくなるということだ。


ECが低価格にひれ伏すのではなく、消費者が低価格にひれ伏すのだと言う人もいる。消費者が低価格にひれ伏すのは、消費者のポケットの中のカネがますます少なくなっているからだ。それはその通りだが、さらに踏み込んで、「消費者のポケットの中のカネがますます少なくなっているのはどうしてか」と聞くべきだ。


カネは商品やサービスに対応するものだ。中国は商品もサービスも不足しておらず、中国は世界の工場であり、2023年、世界の人口の17%を占める中国は世界の商品の31%を生産し、多くの業界で世界の生産能力の半分、さらには70〜80%を占めている。つまり、中国の消費者は本来たくさんのカネを持っているはずで、商品だけで言えば世界平均の2倍近くになるはずだが、実際は正反対で、半分弱しかない。中国人の消費は非常に少なく、全世界の住民消費の8.4%しかない。


なぜこうなるのか。一般の中国人の給料が低すぎるからだ。給料が低すぎるのはなぜか。重要な原因の1つに、低価格にひれ伏す、価格競争が「悪性腫瘍」になっていることが挙げられる。低価格のために、サプライヤーから容赦なく搾取したり、従業員の賃金を低く抑えたり、手抜きをためらわなくなる。


悲しいことに、非常に多くの業界のリーディングカンパニーは価格競争を好み、彼らが価格基準の制定者であるために、産業チェーン全体が這いつくばるように進むしかなく、産業の高度化は水泡に帰してしまう。


多くの人は「消費者福祉」(消費者が商品やサービスの購入時に得られるメリット)で価格競争を擁護しているが、生産者と消費者は「回転ドア」であり、同じコインの表裏であることに気づいていない。甲業界の生産者は乙業界の消費者であり、甲業界の企業が十分な利益がなしに生きていくと、次々と賃金を引き下げて人員を削減する。乙業界もまたそうすることになり、乙業界の影響はまた丙業界と丁業界にも波及することになる。このように循環するのは、価格のスパイラル的な下落と経済のスパイラル的な下落であり、このようなことは経済史上何度も起こっている。最も典型的な例は1930年代に世界を席巻した大恐慌だ。当時、誰もが自分たちにとって最も有利に見える選択をしていたが、それが積み重なっていくうちに経済崩壊につながった


技術と経営の進歩によってもたらされた低価格だけが持続可能であり、それこそが真の「消費者福祉」だ。例えば、人々の月給は1000元以上30年前のコンピュータは1万元以上もしたが、性能は今日のコンピュータの1万分の1にも及ばなかった、例えば、20年前は大画面液晶テレビ1台が数万元もしたが、今は数千元で買え、より軽くて薄くて画面もきれいなものとなっている。例えば、5年前に高級車にしかなかったスマート運転・スマートキャビンのエアサスペンション技術は、今では十数万、二十万の普通車にもある。だが、近年の価格競争を見ると、主流の推進力は技術の進歩や経営の進歩ではなく、野心・貪欲・恐怖であり、価格競争の発動者や値下げ令の通達者は野心と貪欲であり、否応なく巻き込まれた同業者やサプライヤーにとっては恐怖だ。


非常に長い決済期間は中国のビジネス環境のもう1つの「悪性腫瘍」だ。被害者は主に中小企業で、加害者は主に大企業、特に一部の業界トップ企業だ。


自動車業界を例にとって説明しよう。中国の経済雑誌『財経』がこのほど国内外の上場自動車メーカーのデータを統計したところ、中国の上場自動車メーカー16社の現在の買掛金と支払手形の回転期間は平均182日で、外資系自動車メーカー14社では基本的に60日以内に抑えられていることがわかった。


各大手自動車メーカーには非常に多くのサプライヤーがあり、年間決済資金は数百千億元で、支払延期は3か月であり、無利子でサプライヤー資金を占有することに相当する。支払延期は1年間で、無利子ローンを獲得することに相当する。さらに、現在の1年ローン金利は3.1%で、100億元のサプライヤー資金を1年間占有することに相当し、3.1億元の利息節約に相当する。


もちろん、大手サプライヤー、特に上場企業は、交渉力が高く、単一の「甲」に依存していないので、決済期間も短い。だが、最も不公平で理不尽なところもここにある。それは、中小サプライヤーは資金チェーンが最も逼迫しているのに、最大の圧迫を受けなければならないということだ。


さらに理不尽なのは、決済期間が半年に及ぶだけでなく、決済の際に現金を渡さず、商業引受手形だけを渡し、現金化期間を3か月から半年遅らせることだ。多くのサプライヤーはやむなく、商業引受手形を割引で現金化するしかなく、さらに5〜10ポイントの割引率を支払わなければならないことになる。これは、このサプライヤーが「甲」に迫られて毎年供給価格を下げなければならないだけでなく、入金時に再度価格を下げていることを意味している。


多くの中小企業はこのように生存線の縁でもがいており、技術進歩による産業の高度化など語る以前の問題だ。


さらにひどいのは、一部の大企業がいわゆる「サプライチェーン金融」でサプライヤーを圧迫することだ。相手に支払いをしない一方で、相手に自社の預金取り扱い会社でサプライチェーンの融資を受けさせる。そして、「御社はカネがないのだろう?カネは貸すが、われわれに利息を払ってくれ」ということをする


価格の過当競争と長期の決済期間は2つの話題のように見えるが、実は内在的につながっている。価格競争に熱中する企業は、サプライヤーを搾取することに熱中する企業であり、決済期間が非常に長い企業であることが多い。彼らは価格競争のための「弾薬」を買いだめするためにサプライヤー、さらには自分の従業員から搾取する必要があるからだ。


合理的な決済期間とはどれくらいなのか。2020年7月5日、国務院は『中小企業支払保障条例』発表し、同年9月1日から施行した。この条例では、一般的な場合は30日を超えず、特別な場合は最長で60日を超えないと規定しており、また、「中小企業に商業手形などの非現金支払方法を強制してはならず、商業手形などの現金以外の支払方法を利用して形を変えて支払期間を延長してはならない」と規定している。


残念ながら、現実にはこれまでにこれらの規定が実行されたことなど一度もない。


(『日系企業リーダー必読』2024年12月20日の記事からダイジェスト)

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