研究院オリジナル 2025年6月上半期、中国メディアが多く報道・論評した中日経済関係および日本企業の動向は以下の通りである。
改革開放の前衛、広東省が日系企業に前例のない好意を示す
広東省と中信(CITIC)集団は今月12日、広州市で「日本企業の広東フェア」を開催した。このイベントの規模と内容の充実度は近年では稀だった。広東省共産党委員会の黄坤明書記、王偉中省長ら要人が会場で講演した。黄坤明書記は、多くの日系企業がこの機会にメカトロニクス、ロボット技術、人工知能などの新たな分野に注力し、同省内でさらに多くの投資と事業展開を望むと述べた。王偉中省長は、広東省は今後もハイレベルな対外開放を実施し、市場化、法治化、国際化された一流のビジネス環境を構築してゆくと約束した。日系企業がより多くの優良プロジェクト、リージョナル本部、研究開発センターを省内に設置し、広東・香港・マカオ・ベイエリアの発展に寄与してほしいと語った。
今回のイベントでは、ドローン輸送など低空経済、人工知能、自動車、バイオ医薬と健康、商業サービスなど五大産業の専門別交流会が開催され、日系投資企業が広州、仏山、東莞などを視察・交流する機会が設けられた。日系と中国資本のともに200社を超える企業代表が出席し、68件のプロジェクトを交渉し、27件が会場で調印され、契約総額は1034.64億元(約20512億元)に達した。
広東省は中日両国の経済協力がもっとも密接で貿易額も最大規模であり、日本企業の対中投資がいちばん多い省のひとつである。統計によれば、改革開放以来日本は広東省で3155社を設立し、総投資額は170億米ドルに達してトヨタ、本田、日産、東レなどが拠点を置いている。
「近年、外資の対中投資の減少や中米貿易戦争が継続する背景のなかで、中国にとってEUや日本との協力強化が重要になっている」とアナリストは分析する。広東省と日系企業は長年にわたり堅実な協力関係を築いてきた。今年1〜4月期における同省の外資利用額は前年同期比8.9%増加し、そのうち日本からの投資は40%以上増えている。このため同省が日系企業の誘致を不況の突破口と位置づけるのは、効果的な戦略と言えよう。
日系企業にとって、広東省での事業展開は理想的な選択肢でもある。同省には電子情報や自動車などの整ったサプライチェーンが存在し、そこに日本企業が参入すれば、上流から下流まで完備した協調を図ることが可能で、生産コストの削減や効率の向上で国際競争力を上げることができる。
さらに広東省は改革開放の最前線に位置し、体制面で他省に先行する利点がある。今年4月、同省は中国本社、アジア太平洋リージョナル本社、グローバル事業本部として登録された外資系企業に最大800万元(約1.58億円)の一時金を支給する通達を出した。さらに多国籍グローバルR&Dセンターに指定された企業には最大600万元(約1.19億円)の一時金を支給する制度も整備された。
中古住宅整備事業が松下に新たな機会をもたらすか
松下ホールディングスが最近発表した2024年度決算報告によれば、同社は中国で苦戦を強いられている。中国部門の売上高は前年比0.95%減少、エアコンなど主力商品の市場シェアは1%を下まわり、ほぼ周縁化している。
松下はこのような苦境のなか事業のイノベーションに打開策を求め、「住空間」戦略を打ち出して中国の巨大な中古住宅リノベーション市場に照準を合わせた。同社のプランによれば、2025年にはこの分野の事業規模を2024年の3倍に拡大する見通しだ。
松下のこうした戦略は的確といえよう。中国の不動産事業は新築マーケットの衰退が著しいが、一方で膨大な老朽化住宅のメンテナンス需要が増えている。2025年3月、中国住建省は2000年以前に建てられた住宅小区のすべてを改修対象に指定し、エレベーターの増設、配管更新、高齢者向け設備などの整備を進めると発表した。また、老朽化住宅の中古価格は下がっているものの、都市の中心部に立地し、生活の利便性が高く、賃貸収益性も良いため、投資家、若年夫婦、高齢者など幅広い層に人気がある。松下の「和式住空間ソリューション」は、狭い間取りの効率的な収納設計や高齢者向け安全設計を重視し、中古住宅の改修ニーズに的確に応えている。
但し、関連メディアは松下の新事業には見すごすことのできない課題もあると指摘する。第一に、「日本的美学」から「中国式実用性」への転換をどう実現するかだ。第二に、老朽住宅の所有者は整備コストに敏感なため、改修費用の引き下げができなければ高品質設計は「高嶺の花」となり、普及の障害になる恐れがあるというものだ。
百貨店の閉店が相次ぐなか、高島屋は中国投資を拡大
ここ数年来、中国の百貨店業界には閉店ラッシュが続き、多くの有名店が店を閉じている。たとえば、昨年は30年間営業してきた上海伊勢丹(梅隴鎮伊勢丹百貨店)が閉店した。しかし例外もある。最近、上海高島屋百貨は、日本本社が1億元人民元を投じて店舗の転換・高度化を推進する方針を発表した。
上海高島屋は2012年12月に開業し、同社にとっては海外3号店で、中国初の完全日本資本による百貨店投資プロジェクトだった。商業施設は古北新区の虹橋路に位置して古北国際コミュニティの外国人居住者や虹橋開発区の外資企業や領事館に隣接する立地から上海のみならず全国でも象徴的な日系高級百貨店として知られた。
しかし好調は長く続かず、高島屋は急激に変化する中国市場に適応できずに経営が困難となり、2019年6月には同年8月末で閉店すると発表した。幸い行政当局の仲介や賃料優遇などの措置が取られ、営業は継続された。
その後上海高島屋は日本的な商業文化と中国市場へのローカライズのバランスを最重視し、成果を収めている。現在、同店2階の会議室に入るとすぐ眼に入るのが中華風の「錦旗」で、それは長寧区から「五五ショッピング・フェスティバル」(五五購物節)の運営に貢献したことを称えられたもので、現地化の進展を象徴している。
今年4月、商務部、税関総署など6省庁が出国税還付の新政策を打ち出すと、上海高島屋はすぐに長寧区初の「即時還付」を申請し、今年の還付金額は前年同期比で倍増している。
上海高島屋は10年余の試行錯誤を経て、すでに中国市場にうまく適応したようだ。今回の増資について日本高島屋グループの村田善郎社長は、「中国は現在世界最大の消費市場であり、高島屋はこの大舞台で常に重要な地位を維持すべきだ」とその抱負を述べた。
コマツの利益減少をもたらした「中国要因」
先ごろ、コマツ(小松製作所)は2025年度の利益が27%減少するとの見通しを明らかにした。業界ではこの経営不審の背景に複数の「中国要因」があるとみている。
中国の三一重工(本部北京市)、徐工グループ(同江蘇省徐州)、柳工グループ(同広西チワン族自治区柳州)などの競合他社は低価格かつ潤沢な生産能力を背景に、グローバル新興市場でコマツのシェアを奪っている。同社の今吉琢也CEOは、「製品の耐久性や信頼性では当社がまだ優位を占めているが、中国メーカーもコストを抑えながら良好な性能を実現し、電動化の分野ではむしろ先行している」とライバルの台頭を認めている。
加えて、コマツは中米貿易戦争のあおりを受けて予想外の悪影響を被っている。同社は米国で製造する製品に中国製の鉄材を使用し、米国製の鉄が中国製の2倍以上の価格であることから、トランプ関税で最大200億円(約1.4億ドル)の追加負担が発生するものと見込まれる。
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