【毎週日系企業ウォッチ】
研究院オリジナル 今週の注目は、「日本製ミドル・ローエンド工作機械が中国企業の強力な攻勢に直面」、「ホンダが半年で182億円の巨額損失も、なお広汽との契約を2038年まで延長」、「明治が中国の牛乳事業を売却し、“高収益カテゴリー”にシフト」などである。
日本製ミドル・ローエンド工作機械、中国企業の強力な攻勢に直面
2026年、世界のAI産業競争の熱気が、思いもよらぬ産業チェーンを通じて日本の工作機械業界に波及しつつある。
5月、日本工作機械メーカーのツガミは、中国の液冷機器メーカーから大型受注を獲得。その額は216億円に達し、前年同期比3.5倍となった。芝浦機械も関連受注が大幅に増加した。
しかし、受注増加が直ちに日本企業の迅速な納入を意味するわけではない。生産リードタイムが長く、一部の日本工作機械メーカーの納期は最短でも5か月後になる。AIサーバー液冷機器メーカーが拡産ペースを加速させるなか、中国メーカーは調達先を国内の東莞、深圳、山東省滕州などの工作機械産業集積地に切り替えざるを得なくなっている。
なぜ日本工作機械はタイムリーな納入が難しいのか。
その一因は、伝統的な製造プロセスの制約にある。高精度工作機械には大型鋳鉄部品が基盤構造として必要だが、鋳鉄は製造後に長時間の「時効処理」(材料内部の応力を徐々に解放し、長期使用時の変形を防ぐ工程)を要する。この処理には通常数か月を要し、日本企業は安定受注と高品質生産で優位性を築いてきたが、需要が突発的に急増した際には生産能力の調整スピードが弱点となる。
もう一つの要因は、主要部品の供給にある。工作機械の中枢制御システムに相当する「頭脳」として、日本企業が広く使うファナックなどのNC装置は、近年チップ供給や生産能力配分などの影響で納期が顕著に延びている。同時に、日本製ハイエンド製品に必要な一部の特殊材料も中国からの輸入に大きく依存しており、中国がタングステン・レアアースなどの戦略物資の輸出管理を強化したことで、日本の一部製造工程が新たなサプライチェーン圧力に直面している。
日本企業の供給不足をみて、中国の工作機械メーカーが素早く好機を掴んだ。
例えば、喬鋒智能(Jirfine Intelligent Equipment Co Ltd)は液冷機器の生産ニーズに照準を合わせ、短期間で複数の専用工作機械を投入。日本機械の数か月納期に対し、喬鋒はより低価格で納期の短い提案を提示した。報道によれば、2026年第1四半期には、液冷機器関連受注の割合がかなりの高水準に達したという。
このような市場ニーズへの迅速な対応力は、中国製造業が近年培ってきた重要な強みである。日本工作機械メーカーが汎用性・標準化・高信頼性を長年重視するのに対し、中国企業は顧客の個別生産ニーズに合わせて製品を素早く調整することに長けている。
中国の工作機械産業集積地のなかで、山東省滕州は特に代表的な存在だ。ここには約400社の工作機械メーカーが集積し、比較的完成された部品供給システムを有し、地元調達率は80%を超えている。
滕州企業の強みは単なる低価格ではなく、完全な産業チェーンによるコスト削減と納期短縮にある。例えば、日本ブランドの入門機マシニングセンターが40万~50万元程度で販売されるのに対し、滕州の同クラス製品は約12万~18万元だ。多くの自動車部品・電子機器加工・金型製造企業にとって、製品精度が生産要件を満たせるのであれば、ブランド力の重要性は相対的に低下する。
かつて日本工作機械は精度・安定性・ブランド信頼性で中国市場の大きなシェアを占めていた。しかしミドル・ローエンドの市場では、中国企業がコスト優位性・サプライチェーン効率・迅速なサービス対応力を武器に、日本ブランドから急速に代替が進みつつある。
ただし、日本の工作機械業界が全体的に衰退しているわけではなく、明らかな二極化が進んでいる。
ハイエンド領域、例えば航空・医療機器などで使われる最高級の5軸工作機械には、依然として高い技術的障壁がある。ヤマザキマザック、オークマ、牧野フライスなどの日本企業は、これらの分野で引き続き競争優位性を保っている。
真に打撃を受けているのは、自動車部品・消費者向け電子機器など向けのミドル・ローエンド市場だ。かつて日本の工作機械メーカーは中国市場で長く大きなシェアを占めてきたが、今やその優位性は低下している。同時に、中国国産の工作機械メーカーが、特に一部のミドル・ハイエンド分野でもシェアを急速に拡大しつつある。
日本製造業の試練は、すべての優位性を失うことではなく、これまでの「高品質+安定供給」という競争モデルが、コスト・スピード・カスタマイズ能力をより重視する新たな競争環境に直面していることにある。日本の工作機械メーカーにとって、生産における柔軟性を高め、コストをいかに引き下げるかが、今後数年で取り組むべき課題となるだろう。
ホンダが半年で182億円の巨額損失、それでも広汽との契約を2038年まで延長する理由
7月、広汽集団とホンダは正式に契約を更新し、双方の持ち株比率は変わらず、協力期間を直接2038年まで延長した。
近年ホンダは中国で赤字が続き、今年の半年間の損失は182億元(約3600億円)に達した。中国工場の生産ラインは一時停止を余儀なくされ、中国市場シェアは3%を割り込んでいる。このため、これまでの世論はホンダと広汽の契約更新に楽観的ではなかった。
ホンダのこの決断の背景には中国市場に対する深い認識があると業界では見られている。中国は世界最大の自動車の競争の市場であり、一度撤退すれば、長年かけて築いたチャネルやリソースがすべて無駄になる。また、中国市場は最も厳しい教師でもあり、ここに残ることで学び、進歩することで、将来的に巻き返すチャンスが得られる。中国市場で競争に生き残れなければ、世界競争で勝者となる資格はない。
ホンダは、中国自動車産業のサプライチェーンの完全性と技術更新のスピードが、世界的に代替不可能であることを熟知している。今や半年で新型モデルを開発することができ、新技術は3~5か月ごとに更新される。その場にいなければ、そのペースにまったく追いつけない。中国のサプライチェーンを離れて他国で自動車を製造すれば、コストは下げられず、技術更新も半歩遅れ、最終的に世界市場で後れを取ることになる。
実際、契約更新の発表前に、ホンダの株主はすでに広汽ホンダへの増資を完了し、広汽ホンダによる東風ホンダエンジン資産の買収を推進し、中核となるパワートレイン資源を統合していた。ホンダの次の一手は明確だ。無闇に大量の新型車を投入するのではなく、まずサプライチェーン・パワートレイン技術・完成車生産システムをすべて整備して固め、そのうえで電動化への転換を着実に進める。この「基盤を固めてから加速する」というアプローチは、ホンダが長期的な視野で構えていることを示している。
明治による中国牛乳事業売却は驚くに値しない
7月21日、明治ホールディングスは中国の牛乳・ヨーグルト事業を上海澳雅食品(Shanghai AustAsia Food Co.,)に売却すると発表した。譲渡対価は3.2億元(約76億円)。中国のインターネット上では「明治の中国撤退」といった論調が流れたが、日本企業の意思決定パターンを長期的に観察していれば、この見方は客観的なものとはいえない。明治は撤退ではなく、ごく典型的な日本企業流の「転場(フィールドシフト)」である。
現在、明治のチョコレート・カカオ関連製品は依然として中国における重点カテゴリーであり、また、株式譲受先である澳雅食品の親会社・澳亜集団(オーストアジア・グループ、AustAsia Group Ltd)の株式25%を明治が保有している。つまり、事業を「直営」から「出資+ライセンス」に切り替えたにすぎず、完全な撤退ではない。
慢性赤字が続く牛乳とは異なり、ここ数年、明治のチョコレートは中国市場で安定した販売成長を維持し、高級・健康チョコレートの細分化されたセグメントで非常に高いシェアを獲得し、明治中国食品事業の最大の収益柱となっている。儲からない牛乳という「レッドオーシャン」に留まるより、収益性の高いチョコレートやアイスクリームなどの菓子・食品カテゴリーにリソースを集中させるのは、賢明な判断であろう。
当研究院としては、明治の売却は驚くに値しないと考えている。これは近年、多くの日本企業が中国で行っている事業調整の共通パターンだ。例えばソニーは2026年1月にTCLと合弁会社を設立し、TCLが51%を出資、ソニーテレビとホームオーディオのグローバル運営をTCLが引き継ぎ、ソニーは「直営」から「出資+技術提供」に移行。パナソニックは2025年に北米・欧州のテレビ販売を創維(スカイワース)に移管し、自社はハイエンド機種の研究開発を継続。無印良品は2025年に主要商圏の老舗店舗17店を閉鎖したが、同時期に33店を新規開店し、売上高と利益は過去最高を更新している。
『日系企業リーダー必読』は中国における日系企業向けの日本語研究レポートであり、中国の状況に対する日系企業の管理職の需要を満たすことを目指し、中日関係の情勢、中国政策の動向、中国経済の行き先、中国市場でのチャンス、中国における多国籍企業経営などの分野で発生した重大な事件、現状や問題について深く分析を行うものであります。毎月の5日と20日に発刊し、報告ごとの文字数は約15,000字です。
現在、『日系企業リーダー必読』の購読企業は、世界ランキング500にランクインした日本企業を含む数十社にのぼります。
サンプルをお求めの場合、chenyan@jpins.com.cnへメールをください。メールに会社名、フルネーム、職務をご記入いただきます。よろしくお願いいたします。
当研究院のメールマガジンをご購読いただくと、当方の週報を無料配信いたします。ほかにも次のような特典がございます。
·当サイト掲載の記事の配信
·研究院の各種研究レポート(コンパクト版)の配信
·研究院主催の各種イベントのお知らせ及び招待状
週報の配信を希望されない場合、その旨をお知らせください。