『必読』ダイジェスト 米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は7日、「中国の工場が移転―――インドやメキシコには移転せず」と題する記事を掲載した。報道によると、メキシコ、インド、ベトナムなどは、中国から世界の工場の地位を引き継ぐ競争において、中国の広大な内陸部という強力なライバルに直面している。
記事は、「各企業が中国中西部の省でより安価な土地や労働力を求めていることから、低コストの製造業が中国のにぎやかな地域である沿海部から離れつつある」と指摘。
近年、米国の増税が商品コストを押し上げたことや、中国沿海部の大都市がハイテク電子製品や電気自動車(EV)、その他の先進的産業に重点を置くようになったことを受け、製造業移転のペースが加速している。その結果、中国の内陸部の輸出が急増していることで、中国製造業の「王冠」を得たい潜在的ライバルの輸出伸び率が見劣りするようになった。
記事は、次のように分析している。中国が半導体や再生可能エネルギーなどの主要産業のサプライヤーとなることに、西側諸国が警戒感をますます強めつつあるなか、中国内陸部のさらなる発展は世界の製造業における中国の主導的地位の強化に役立っている。
エコノミストは、次のように述べた。「米国とその同盟国は補助金やその他のインセンティブ措置を通じて中国以外の代替者を受け入れるよう企業を説得しているが、企業が調達面での大きな転換を行うまでにはまだ何年もかかる可能性がある」
米ハーバード大学ケネディスクールの都市政策教授で経済学者のゴードン・H・ハンソン(Gordon H.Hanson)氏は、「予見可能な未来において、中国は完全に世界の製造業のメインプレーヤーとなるだろう」と語っている。同氏は2020年の論文で、より多くの製造業が中国内陸部に移転する可能性を検討した。
ハンソン氏はさらに、「中国の生産能力はあまりに大きく、世界はかなりの期間、中国に依存しなければならない」と述べた。
記事によれば、「2018年初め以降、工場生産が珠江デルタや長江デルタ以外にも拡大したことで、中国の中西部15省の輸出が94%急増した」という。
データ提供会社CEICが収集した公式データによると、今年8月までの12カ月間、これらの省の輸出総額は6300億ドルに達し、同期間のインドの4250億ドル、メキシコの5900億ドル、ベトナムの3460億ドルを上回った。
記事によると、中国以外の製造業の盛んな国々への関心が高まっているものの、中国内陸部の輸出の伸び率はこれらの国々のそれを上回っている。
記事はさらに、次のように指摘する。「中国沿海部(南部の広州と深圳、東部の寧波と上海、北東部の青島と天津などの製造業の中心地が含まれる)が依然として世界の製造業の主要な力となっている」
エコノミストは、「世界の製造業に対する中国の支配的地位を揺るがすことはかなり難しい」と述べている。
記事は、「規模が中国の強みの一つである」と見ている。日本や韓国をはじめとする東アジア諸国は前世紀に工業化を実現するのにともない、繊維製品や家具などの生産を断念し、限られた工場生産能力を自動車や電子製品などのハイエンド製品に集中させてきた。これに対し、中国は各種商品の製造分野で一貫して主導的な地位を占めている。これは、中国人労働者の平均賃金が上昇しても、中国の工場が全体的なコストを削減する力があることを示している。エコノミストは、「これはベトナム、インド、バングラデシュなどの新興製造業諸国が中国と競争する上で、非常に大きな課題に直面していることを意味する」と指摘する。
(『日系企業リーダー必読』2023年10月20日の記事からダイジェスト)