研究院オリジナル 中国市場は常に日本製品に歓喜をもたらしている。かつての温水洗浄便座や炊飯ジャーなどの現代科学製品だけでなく、日本の伝統の真髄が中国市場でブームを巻き起こしている。

日本の政府部門のデータによると、2011年から2020年までの10年間に、日本酒の対中輸出額は26倍も増加した。2021年は新型コロナウイルスの影響がある中で、日本酒の対中輸出総額(香港と台湾は含まない)が、新型コロナウイルス流行前の2019年同期より177.5%増加した。日本酒に見られるような持続的な高成長率は、日本製品の中でも非常に珍しいものであり、中国は今や日本酒の最大輸入国となっている。

実のところ、日本酒は日本国内市場ではすでに勢いが衰えている。1998年、日本の日本酒市場全体の出荷量は113万キロリットルだったが、2008年は66万キロリットルと大幅に減少し、2015年には55万キロリットルに、そして2019年にはついにピーク時の三分の一にまで落ち込んだ。この2年間は新型コロナウイルスの流行により、日本の飲食業界が大打撃を受けたことが日本酒業界にさらなる追い打ちをかけた。しかし、中国などの海外市場における需要が依然として大きく増加していることは、日本酒に歓喜をもたらしている。

白酒よりも日本酒を歓迎する中国の次世代消費者

日本酒は日本の「国酒」と称され、1000年以上の歴史が伝承されているが、このような日本の伝統文化の真髄とも言える品がどのように中国市場でブレイクしたのか?

これまでずっと中国の酒類市場では、白酒が主役の座にあり、2020年に白酒は酒類市場で65%のシェアを占めた。しかし、白酒は発展の勢いを失いつつある。中国国家統計局のデータによると、中国の白酒の生産量は2016年にピークを迎えた後、下落に転じた。2021年の白酒の生産量は2016年よりも47.3%も減少し、約半分にまで落ち込んだ。時を同じくして、ワインや日本酒など他の酒類が上昇傾向を示し、2021年には新型コロナウイルスの影響下であっても、中国における日本酒の販売量は減少するどころか過去最高を記録し、2355万リットルに達した。

その背後にある要因は中国の次世代消費者層に変化が生じたことだ。中国における現在の若者世代は教育水準が高く、飲酒に対する考え方も以前の世代とは異なり、飲酒の際は「ほろ酔い」が最も好ましく、泥酔は教養の欠如であり、体に悪いと考えている。それゆえ、アルコール度数の高い白酒は次世代消費者の間で人気がないのだ。そして、若者世代は自分自身をより重視しており、酒類の消費は「ミーイズム時代」(悦己時代)に入った。白酒の最大の消費シーンは接待や宴席であるため、これまで中国で酒の主役だった白酒は若者たちの間で見放されつつある。ローランド・ベルガー(Roland Berger)のデータによると、中国の30歳以下の消費者による酒類の消費で、白酒が占める割合はわずか8%に過ぎない。これにより日本酒やワインなどアルコール度の低い酒に市場機会がもたらされている。

市場ニーズの変化以外に、日本酒が中国市場で人気がある理由は日本酒自体の品質と関係している。日本酒は米で醸造されているが、米は中国人の伝統的な主食であり、日本酒のまろやかな口当たりは、多くの中国の消費者に親近感を抱かせ、それはワインにはないものだ。またアルコール度数が低く、口当たりが爽やかなため、女性たちの間でも評判が高い。さらに中日文化は相通じるところが多く、日本酒のブランド名や包装デザイン、日本語のラベルはいずれも中国の伝統的な美的センスに合致しているため、心理的にも中国の消費者を引き付けている。

文化と商業力の結合が推進した中国市場における日本酒の拡大

非常に興味深いことに、日本酒が速やかに中国市場を手中に収めた過程は、他の日本製品と異なる。日本酒はまず中国で文化的流行のシンボルとなり、一級都市で上流階級から始まり、上から下へと徐々に一般市民の消費者層にも広がっていった。日本酒は中国市場で成功を収めることによって、文化と商業の結合による力を見せつけた。

日本酒は最初に上海や北京、広州、深センの4つの一級都市で流行し始め、北京や上海の日本人が多く住む商業圏やコミュニティで、日本酒のニーズが大きくなり、その後次第に周囲の人々による消費へとつながっていった。広州や深センにおける日本酒の消費は香港からもたらされ、日本料理の文化の影響を受けた香港人は日本酒に対する関心が高い。最初に中国市場を切り開いた日本酒はいずれも日本で有名な高級銘柄だ。例えば十四代や獺祭などであり、それらの酒は中国の新たな富裕層からステータスのシンボルと見なされており、日本酒はハイエンド消費によってけん引され、今や文化的流行となっている。

日本酒が文化的流行となった後、日本料理店が国内で増加するにつれて、日本酒は中国市場で速やかに拡大していった。2018年、中国のグルメプラットフォーム「大衆点評」で紹介されている日本料理店の店舗数は4万軒以上だったが、2021年には2倍に増加し、8万軒以上に達した。日本酒は日本料理店の定番として多くの中国の消費者に認識されている。白鶴や大関、月桂冠、松竹梅、日本盛、獺祭、菊正宗など日本の有名ブランドはいずれも中国市場に広く流通している。

日本政府も中国市場における日本酒の発展を後押ししている。日本政府によって設立された日本食品海外プロモーションセンターは中国の日本料理店と協力して日本酒のテイスティング体験イベントを何度も開催しており、中国の消費者に日本酒を勧めている。

2015年から、日本からの日本酒の対中輸出が大幅に拡大し始めたが、特に2016年以降は加速し続けている。日本酒の価格は一般的に高く、例えば有名銘柄の獺祭23は720mlのものが一本1000元以上であり、高木酒造の「十四代」の販売価格は720mlで2万元を超えており、中国で最も高価な茅台酒を上回っている。

しかし、それほどまでに高価であっても、依然として供給が需要に追いついていない。獺祭は仕入先での欠品により、さらには抱き合わせ販売が横行しているために、販売業者は獺祭を仕入れたいと思っていても、獺祭とともに輸入業者が在庫している他の日本酒も同時に購入しなければならない。2022年4月1日から、獺祭は値上がりし、今後も毎年1回は値上げされることが予想される。

今後10年以内に中国の酒類業界にもたらされ得る最大の構造的変化

明らかに、日本酒の急激な発展ぶりは中国の酒類市場にショックをもたらしている。ある業界内の分析によると、日本酒は今後5年から10年の間に、販売規模が輸入ワインを上回るかもしれず、これにより今後10年以内に中国の酒類業界に最大の構造的変化がもたらされる可能性がある。

2022年7月、中国酒業協会の宋書玉理事長は同協会の第6回理事会第四次会議で、中国の酒類業界が新たな生産調整の段階に入ることを認めた。産業構造や市場、消費構造の面で変革と調整に直面している。

日本酒の中国における発展の勢いは中国の酒類業界の同業者を大いに刺激している。日本酒は中国の黄酒の醸造方法を模倣して発展させたものだが、日本酒の販売量は今や中国の黄酒を大きく上回っており、このことを中国の酒類業界は真摯に受け止めて反省するべきだと譴責する声が上がっており、同時に日本酒の起源は中国にあるのならば、中国の清酒を復興させて、日本酒との市場競争を展開できるはずだと訴える者もいる。

確かに、近年、中国の酒造メーカーも清酒を手掛け始めており、一連の国産清酒銘柄を発売している。しかし、まだまだ初歩レベルに過ぎない中国の清酒は、技術的な品質と銘柄の知名度のどちらにおいても日本酒の足元にも及ばない。

しかし、日本酒にも全く問題がないわけではない。日本の酒造工場の多くは農民が管理する企業であり、海外貿易に関する理解に乏しいため、その大半が第三者企業を介して中国市場に進出している。これらの企業がより深くかつ末永く中国市場を手中に収めたいのならば、ローカライゼーション戦略を実行し、中国に投資して工場を設立する必要がある。情報筋によれば、すでに少数の日系清酒企業が中国国内に工場を設けているという。例えば、中谷酒造株式会社は天津中谷酒造株式会社を設立しており、同社が展開する「朝香」という銘柄の清酒は国産銘柄の主力となっている。

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