資本がインドに流れる

アップルは世界に約610か所のサプライチェーン工場を抱えているが、インドには9か所しかない。5年以内に生産能力の30%を移転するとなると、産業労働者が勤勉さに欠ける、インフラの立ち遅れ、官僚の腐敗、劣悪なビジネス環境などのレッテルを貼られているインドは、極めて大きな試練に満ちている。

だが、これはメイド・イン・チャイナの実力に胡座をかいて、インドを嘲笑する理由ではない。工業化が進む中で、インフラ、制度、文化、さらには信仰までもが再構築される可能性がある。本質に立ち返ると、やはりもっと「ハードコア」な要素、つまり土地、労働力、資本、技術が欠かせない。

労働力や土地についてはこれ以上言う必要はない。インドの土地私有化の問題は深刻で、産業労働者の素質の向上が待たれるが、基数は現在の状態であり、これは「天賦」と言える。インドの大きな可能性を1つや2つの観点で徹底的に否定することは難しい。

技術面では、モディ政権の基本的な産業政策として輸入代替がどんどん進んでいるが、見落とされている点の1つは、ハイテク海外資産を買収する際の抵抗はインドの方が中国に比べてはるかに小さいことだ。インドが海外での買収を加速させれば、米中関係の緊張の高まりを背景に、中国・インド間の産業や技術の格差を急速に縮めることになる。

特筆すべきは、「資本」がインド産業に与える影響だ。

ここ2年間のインド経済の発展は、主に外商投資(外国企業・外国人投資家による投資)の急増によるものだ。2021年、インドの外資吸収額は前年同期比76%増の836億ドルで、過去最高となった。

これらの資本はどの業種に流入しているのか。主にコンピュータ、通信、自動車、製薬などの新興産業に流入している。インドは最近、1000億ドルの外商投資を誘致し、2026年に3000億ドルの電子製造センターを整備する目標も掲げている。

資本の流入は、まずインドの高速ネットワークの整備を後押しした。これにより、インドのネットユーザーが急増し、現在では7億人を超えている。インドのインターネット利用者は2025年に8億5000万人を突破すると予想されている。

これは何を意味するのか。当時の中国と同様、ネットユーザーの急増はデータ資産の爆発的増加を意味し、インターネットやハード機器など関連産業のベンチャーキャピタルブームをもたらした。

「2022〜2030年インドEコマース市場報告書」によると、2030年のインド市場規模は4000億ドルに達し、複合年間成長率は19%に達する見通しだ。このような驚くべき将来性は当然、インドがベンチャーキャピタルに好まれていることを示している。

インドのEコマース(EC)は2014年から2022年第3四半期までに合計300億ドルの投資を受けた。一方、インドの「スタートアップ・エコシステム」は過去5年間で約1000億ドルのベンチャーキャピタルを獲得しており、インドはユニコーン企業が3番目に多い国になると同時に、4番目に大きなベンチャー市場にもなっている。

中国のビッグデータやインターネット業界の発展の基盤の1つがネット利用者ベースだとすれば、インドにも同様の優位性がある。2016年に中国のネットユーザー数が7億人を突破した時、インターネット業界とインテリジェントハードウェアデバイスの発展のピークを迎えたことを押さえておく必要がある。

インドの「自力更生」

2020年にはモディ政権が「生産連動型インセンティブ(略称PLI)」政策を打ち出した。簡単に言えば、インドは「輸入代替」に続いて、中国などへの依存度を減らすために、「自力更生」で自国の製造業チャンピオンを育成するという戦略的な道筋を切り開いたことになる。

PLI政策のもと、インド政府は自動車、半導体、太陽光発電、医療機器など14の主要産業を支援するために260億ドルを拠出した。とくに電子部品と半導体の促進に関するプランを打ち出し、半導体企業がインドで工場を建設するようにし、バリューチェーンとより資本集約的な段階に入るようにした。

インドが敢えて「自力更生」を打ち出した根底には、比較的整った基礎工業システムを有していることがある。

「自力更生」は新中国建設期の基本的思想だった。当時、ソ連の援助で重工業の発展に力を入れていた中国は、改革開放期に労働集約型産業を急速に発展させることができる基礎を築いた。

実は、インドも建国当初はソ連の援助を受けて、比較的整った工業システムを構築した。今日、インドの鉄鋼生産量は世界2位、自動車生産量は世界4位、化学工業と医薬品は世界的に有名だ。インドは工業システムの構築に通じており、GDPに占める工業付加価値の割合が高くないにもかかわらず、中南米の早すぎる脱工業化の罠には陥らなかった。

まず重工業と資本集約型の基礎工業に立脚し、労働集約型の外向型経済を発展させ、最後にハイテク分野にインパクトを与えることで、中国はすでに成功の模範となったことを事実は証明している。

インドの現状を垣間見ることができる2つの側面がある。ここ10年来、インドの8大労働集約型産業の失業率は3.8%から8%前後に上昇し、「高成長、無雇用」という難局に陥り、大量の農業労働力を工業労働力に転化できなくなっている。根本的な原因は、インド政府が中心となって投資を誘致する大型プロジェクトは、労働集約型産業ではなく、鉄鋼や自動車などの資本集約型産業が基本となっていることにある。

一方、インドの富豪トップ10には、エネルギー、鉄鋼、非鉄、バイオテクノロジーなどハードルの高い資本集約型産業に従事している人が7人いる。

重工業から軽工業へ、ハイテクからITサービス業へと、インドの発展はいくらかうまく歩けなくなっていると言え、その工業システムは寄せ集めだと揶揄できるが、少なくとも立っていられる。「ある」と「ない」は、全く異なる2つの発展の道だ。

ベトナムの「革新・開放」が中国の「改革・開放」を全面的になぞったものだとすれば、インド自身の「天賦の才」と産業発展の構想全体に、中国の影が見える。

その意味では、インドがベトナムのように依存性の強い輸出型経済を優先することは不可能であり、ベトナムはインドと比較する資格すらない。二者択一となれば、新たな「世界の工場」はインドだけに現れるかもしれない。

一方、中国国内では、娯楽化され、観点が断片化されたインターネットでは、中国人にはむしろ本質的なものが見えず、「インドジョーク」を自分にどっぷり浸かるための麻薬にしてしまっている。

インドはすごい、中国は侮れない。いったんスタートすると、時には足を止められないこともある。

(『日系企業リーダー必読』2023年1月5日記事からダイジェスト)

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