『必読』ダイジェスト 2月下旬から世界の株式市場は明確な「東昇西降」の動きを示し始め、中国A株と香港株が上昇する一方、米国株は下落した。これは単なる短期的な変動ではなく、資本市場が中米両国それぞれにマクロ経済の見方を持ち始めている可能性がある。その結果、西側市場から資本が流出し、中国をはじめとする東方市場に流入する傾向が現れている。
3月10日(現地時間)の米国市場は「ブラック・マンデー」として幕を開けた。トランプ政権が打ち出した関税政策で米国経済のリセッション(景気後退)リスクが高まり、投資家の不安感が急速に広がって米国株が大規模な売りにさらされたのだ。3月14日(木)の取引終了時点で、ダウ工業株30銘柄は2月19日と比較すると平均8.5%下落し、S&P500は10.1%、ナスダック指数も13.7%下落した。
一方、中国市場の動向は対照的だった。3月14日(金)正午、上海証券取引所は2月20日以来1.9%上昇、深圳証券取引所は1.7%、香港ハンセン指数も4.8%上昇している。
アナリストは、「この世界的な資本の大移動は中米両国のマクロ政策が金融市場に与えたもの」と分析。米国ではトランプ政権の政策が頻繁に変更され、特に貿易政策の一貫性の欠如が市場の先行き不透明感を増幅させている。加えて、最近発表された経済指標も米国経済の将来に懸念を強めている。一方の中国ではDeepSeekなど中国の人工知能(AI)企業のブレークスルーが今回の株価上昇の主因となり、さらに政府のハイテク企業支援策や「不動産市場や株式市場の安定化」政策が投資家の信頼を高めている形だ。
国投証券の林栄雄アナリストは、「旧正月以降、DeepSeekの登場や人型ロボット関連技術の進展で中国国産テクノロジーに対する投資家の信頼感が大幅に高まった。また1~2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)の回復や不動産販売データが市場予想を上回ったことも追い風となった。これらの要因が組み合わさり、テクノロジー分野のブレークスルーをきっかけとした『中国資産再評価』の動きが活発化し、市場のリスクが軽減されて取引意欲は引き続き高い水準にある」と指摘している。
同アナリストはさらに、「海外市場ではトランプ政権による“時には追加関税、時にはその取り消し”というころころ変わる不安定な貿易政策が市場の懸念を強めた。これにより市場の価格決定ロジックが“関税引き上げはドル高とインフレ亢進、関税延期はドル安と米国株上昇”という従来のフレームから、“政策の一貫性欠如による同盟国との緊張関係の悪化とリスク選好度の低下”という方向に変化している。さらに中国のテクノロジー分野の進展が加わり、米国経済が混乱によって自滅するというリセッション・リスクへの懸念が強まっている」と指摘する。
世界最大級の資産運用会社の一つであるアムンディ(Amundi)イタリア部門のフランチェスコ・サンドリーニ(Francesco Sandrini)チーフ・インベストメント・オフィサー(CIO)はメディア取材に応え、「株を持ち続ける側面から見て、米国市場はもはや投資家にとって魅力的な市場ではなくなっている。資金は新たな成長ストーリーを求め、他の市場へと移動しつつある。特に中国はテクノロジーの革新と政府の内需支援策の恩恵を受け、関連する株式が好調に推移している」と語った。
同CIOは「DeepSeek関連のニュースが発表されると投資家の中国株——特にテクノロジー・セクターやハンセン指数への関心が高まった。市場は米国の一部のテクノロジーとメディア大手に対する評価が過大なものであると見ており、そのことで米国やアジアのヘッジファンド(いわゆる『短期資金』)が中国・香港市場に大きく流入し、一連の上昇相場を引き起こした」と述べている。
中国の光大証券は、「技術的な観点から見ると米国株は“強気から弱気相場への転換”を迎えつつある」と指摘。一つの注目すべきシグナルは米国の主要3指数がすべて250日移動平均線を下まわったことであり、これは今後さらなる下落が続く可能性を示唆している。一方で香港株は良好なパフォーマンスを維持しており、調整を経た後、再び上昇する可能性が高いという。
最近、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、シティグループ、UBSなどの大手金融機関は相次いで中国株の格付けを引き上げたことからも、中国資産の評価がより魅力的になったと見ていることがわかる。
2月、モルガン・スタンレーは中国株の格付けを「アンダーウェイト(低配)」から「ニュートラル(中立)」へ引き上げた。これは、同社が2年ぶりに中国株市場の評価を見直したことを意味する。
長期にわたって米国株をオーバーウェイトしていたシティバンク(Citibank)は3月10日、米国株の評価を「買い越し」から「中立」に引き下げると同時に、中国株の評価を「買い越し」に引き上げ、「米国例外論」は少なくとも一時的に停止していると述べた。「米国例外論」とは「投資家が欧州や中国をトランプ政権の関税政策による被害者と見なし、一方でトランプの規制緩和や国内減税政策が米国経済の成長を支え、米国株と米ドルが世界市場で突出する」という考え方を指す。
シティバンクのグローバル・マクロリサーチおよび資産配分責任者のダーク・ウィラー(Dirk Willer)氏はレポートで、「DeepSeekの人工知能技術のブレークスルー、中国政府の対テクノロジー産業支援、割安なバリュエーションを考慮すると、中国株は最近の反発後でも依然として魅力的であり、中国A株および香港株にはさらなる上昇余地がある」と述べている。
UBSも中国A株と香港株をポジティブに評価している。UBSグローバル・ファイナンシャル・マーケット部門の房東明中国担当責任者は3月11日、「世界的な不確実性の中で香港株は一時的な調整があるかもしれないが、バリュエーション、流動性、機関投資家の保有状況を考慮すると、依然として世界市場をアウトパフォームする可能性が高い」と述べ、さらに「中国A株は年初から比較的安定した推移を見せており、今後の成長モメンタムはより強くなるだろう」と指摘した。
アムンディ・イタリア部門のフランチェスコ・サンドリーニCIOはまた、「現在、投資家は米国市場の例外主義に疑問を持ち始め、米国経済のスタグフレーション(停滞+インフレ)リスクを分析している。このことは、関税などの不確実性が解消されるまでは、投資ポートフォリオの多様化を維持することが賢明であることを意味する」と述べている。
(『日系企業リーダー必読』2025年3月20日の記事からダイジェスト)
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