【毎週日系企業ウォッチ】


研究院オリジナル 専門研究論文によると、労働集約的で高汚染の日系製造企業では中国での投資意欲が減退し、非製造企業では投資意欲が上昇し、中西部地域への展開を強化しているという。また、日系化学企業は中国企業の海外展開の歩調にあわせて、化学原材料の供給拡大を加速している。


グローバルサプライチェーン再編を背景にして日系企業が中国で新展開


近年、中米両大国の競争と地政学的リスクが重なり、グローバルサプライチェーンが再編期を迎えている。米国の同盟国であり、かつ中国に長期的に深く投資・展開してきた日本は、この背景の下、中国での展開をどのように調整しているのか?最近、遼寧大学日本研究所の『日本研究』誌がこの問題を分析する特別論文を発表、以下は、その要点である。


第一に、産業タイプにおける顕著な調整


中国経済が高度成長段階から高品質発展段階へ移行し、労働力、土地などの生産要素コストが上昇を続ける中、コスト指向の日系企業にとって魅力が低下している。特に労働集約的で高汚染の日系製造企業は、生産コストの上昇や環境保護圧力の増大といった問題に直面し、中国での投資意欲が減退し、代わりに労働力や土地価格がより低廉な東南アジアなどへの展開を選択している。


同時に、中国現地企業のイノベーション能力の向上、製品の品質と価格競争力の向上は、日系企業が中国ローカルブランドと直面する競争を激化させ、これは一部の日系企業が中国での伝統的製造業の生産能力を縮小する理由となっている。例えば2024年6月、汕特(汕頭経済特区)矢崎汽車部件有限公司は中国のすべての工場を閉鎖した。理由は、中国自動車産業の電動化・智能化への転換に伴い、同社が技術革新と製品アップグレードで市場の需要を満たせず、同時に中国の同業他社との競争圧力に直面し、経営が困難になったためで、最終的に中国市場から撤退することになった。


しかしその一方で、一部の日系企業は、中国現地企業との半導体、電池技術、部品生産などの新興産業における協力を強化している。例えば本田自動車はガソリン車の生産能力を削減すると同時に、中国での新エネルギー車の生産能力構築を加速している。東風本田の新しい電動専用工場と広汽本田の新エネ工場がそれぞれ2024年9月と11月に生産を開始し、これにより本田の中国における生産能力構造は最適化された。


第二に、産業構造の調整


これまで製造業は常に日系企業の対中投資の主体であり、一時は日本対中直接投資の7割以上を占めたが、2020年以降、日本の対中製造業への投資には減少傾向が見られるようになっている。2023年、中国における日本の非製造業投資が全業種投資に占める割合は49%にまで上昇している。


中国における日本の製造企業が投資を慎重にする要因としては、グローバルサプライチェーン再編の背景における中国独自サプライチェーンの台頭の影響を一定程度受けているからだ。注目すべきは、投資規模は減少しているものの、自動車、電子などの業種が依然として重要な地位を占めており、かつ業種内の投資構造は低付加価値から高付加価値へ移行する傾向にあり、先端製造業や新興分野への投資が増加している点である。


例えば東風日産は江蘇省常州の工場を閉鎖すると同時に、100億元以上を投じて新エネ車の生産ライン配置と研究開発を強化している。パナソニックも1億8200万元を投じて上海に子会社を設立し、新エネ車分野に注力している。スマート化、グリーン化が次第に日系企業の中国製造業投資の新たな方向性となりつつある。


非製造分野では、中国消費者が品質の高い生活と健康を追求する動きが高まる中、ドラッグストア製品(ドクターズコスメ、薬用化粧品)、健康食品などの特色ある小売分野が日系企業の投資の新たな重点となっている。中国の巨大な市場と急速に発展するデジタル経済は、日本の非製造業企業に豊富な応用シナリオとイノベーションの機会を提供し、小売業の日系企業が新たなビジネスモデルを模索する後押しをしている。例えばローソンは四川哦哦超市や天虹微喔などコンビニチェーンを買収し、買収先のデジタル店舗、サプライチェーン・システム、顧客リソースなどを活用して、現地での市場シェアを急速に拡大し、中国市場で全面的な利益を達成した初の「プレイヤー」となった。ここから、中国の日系企業の投資重点が伝統的製造業から飲食、物流、小売、サービス業などの非製造業へと移行するトレンドを見ることができる。


第三に、空間的配置の調整


日系企業は中国での投資における空間的配置の多様化をより重視し始め、単一地域への依存を減らし、沿海地域市場への継続的な深耕と並行して、中西部地域への投資と展開を強化している。


日系企業は四川、重慶、湖北など中西部地域での事業拡大傾向が比較的顕著である。これらの地域は新たな市場機会と比較的低い生産コストを提供し、多くの日系企業が現地での直接投資をしてきた。特に四川省と重慶市は真っ先にその影響を受けており、多くの日系企業がこれらの地域を「成長力が高く、発展のポテンシャルが大きい」と認識している。例えばイオングループは近年、湖北武漢や湖南長沙に新店舗を出店しているが、これは中西部地域の広大な市場空間と発展のポテンシャルを見込み、全国的により均衡の取れた市場獲得を実現するためである。


さらに、中西部地域は自動車部品、電子情報、バイオ医薬などの分野の産業クラスターも集積しており、多くの日系企業の注目を集めている。成都は中国の重要な電子情報産業基地の一つとして、比較的整備されたサプライチェーンが形成され、集積回路分野の海光(Hygon)、新型ディスプレイ分野の京東方(BOE)など、多くの有名電子企業が集まっている。これらの企業の発展は関連産業のニーズが産み、日系企業に豊富な市場機会を提供している。


2024年、東洋炭素は成都蒲江での投資を拡大した。同社は、成都が電力供給能力、クリーンエネルギー発展、電力保障措置、および豊富な産業クラスターとベクトル空間の応用シナリオなどで優れたパフォーマンスを示しており、重要なパートナーの一つである独ボッシュグループも(おなじ成都市の)蒲江工業パークに立地していることから、東洋炭素は成都の優位性あるリソースをさらに活用したいと考えている。


日本化学企業、中国企業の海外市場開拓にしっかりとフォロー


中国税関総署のデータによると、今年1月から8月までに中国の集積回路チップの輸出額は大幅に増加し、前年同期比23%増の9051億元に達した。昨年、チップの輸出額は携帯電話を抜き、中国の最大の輸出品となった。自動車の輸出額も前年同期比11%増の6052億元に達した。


チップ、新エネルギー自動車産業は化学材料に対する需要が広範にわたり、これが日本化学企業に市場機会をもたらしている。日系化学企業は中国企業の海外市場開拓のステップにしっかりと従い、化学原材料の供給拡大を加速している。


注目すべきは、かつて日本の自動車や家電メーカーが日本国内で材料と部品の認証を行い、その後製品を全世界に輸出して生産していたことである。現在、中国企業も同様の手法で、国内で輸出製品や海外生産製品の材料認証を行っており、日本化学企業は中国企業顧客とのコミュニケーション強化を積極的に図っている。


例えば三井化学はICT(情報通信技術)分野でエンジニアリングプラスチックの認証範囲を拡大している。同社は中国で、フォトマスク用防塵カバーや半導体ウェハ表面保護テープなどの製品で高い市場シェアを有する。また、上海で来年春に現地二番目のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー生産ラインの稼動を計画しており、電気自動車の関連需要に対応する。この製品は中国市場向けのみならず、日本や欧米の完成車メーカーにも販売される。


三菱ケミカルも蘇州拠点の生産能力拡大を計画しており、製品は主に難燃性複合材料に使用される。同社はまた、中国現地生産の自動車部品材料とディスプレイ材料の応用力を重点的に強化する予定である。三菱ケミカルのこれらの製品は明らかなコスト優位性と市場競争力を有している。

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『日系企業リーダー必読』は中国における日系企業向けの日本語研究レポートであり、中国の状況に対する日系企業の管理職の需要を満たすことを目指し、中日関係の情勢、中国政策の動向、中国経済の行き先、中国市場でのチャンス、中国における多国籍企業経営などの分野で発生した重大な事件、現状や問題について深く分析を行うものであります。毎月の5日と20日に発刊し、報告ごとの文字数は約15,000字です。


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