『必読』ダイジェスト 中国欧州連合商会(EU Chamber of Commerce in China)が先月28日に発表した年次大規模調査の結果によると、回答企業の約4分の3が「中国の事業運営で困難に陥っている」と回答。企業の悲観的な観測は、これで4年連続である。
中国で事業拡大を計画する欧州企業の割合も過去最低を記録し、「今年、事業拡大の意向がある」と答えたのはわずか38%にとどまった。中国欧州連合商会は約1700社の欧州企業の利益を代表し、今回の調査には503社が有効回答している。
さらに高まる対中依存
今回、欧州商会が実施した調査はこれまでの結果とは異なり、一見矛盾した傾向が明らかになった。それは、欧州企業が対中投資を減らしているにもかかわらず、少なからぬ企業が中国企業から多くの部品を購入し、サプライチェーンの中国依存が高まっていることである。
中国はトランプ関税に対抗して米国製品に追加関税を課したが、中国欧州商会のジェンス・エスケルンド(Jens Eskelund)会長は調査報告の発表会で、「対中進出している欧州企業は、もともと米国から購入していた部品を中国製に切り替えざるを得なくなった」と述べている。
同会長はまた、「この現象は直接的な感覚とは違うように思える。企業の観測は極めて悲観的で、政治問題や市場参入の障壁に直面しており、中国では利益を上げられない。しかし経済的理由から、中国でビジネスを構築して中国部品を調達し、競争力を維持する必要がある」と述べた。
中国では物価が下落しており、中国製部品は欧州企業にとって極めて魅力的だ。最近、ユーロが対人民元で弱含みとなり、中国製部品の魅力はさらに高まっている。
調査によると、多くの回答企業が業務を中国に回帰させているが、これは中国のサプライチェーンが依然として競争力を有していることを示していよう。データによれば、26%の企業が海外サプライチェーンを中国に戻しており、これは前年より5ポイント増となった。
「世界中で、安価かつ高品質の部品を手配できる唯一の場所は中国だ」とエスケルンド会長は語った。
貿易戦争よりも中国経済の減速を懸念
調査では過去最多の企業が「中国の事業運営に困難を抱えている」と回答し、将来の収益見通しも悲観的なことが示された。調査結果によれば、会員企業の73%が「過去1年間で、中国での経営が困難になった」と答え、経営悪化は4年連続となっている。
回答企業のうち71%は「中国経済の減速が事業への最大の足枷」と考えている。エスケルンド会長は、「中国経済の減速が今後の事業に最も大きな影響を与える要因で、他のマイナス要素を大きく上回っている」と述べた。
中国での短期的な成長と収益性について、企業の楽観度は過去最低に落ち込み、それぞれ29%と12%の企業しか楽観視していない。
中国政府が不動産業界の整頓(是正措置)を進めたことで、コロナ禍の時期に中国経済は主要な成長エンジンを失い、国内需要は低迷し、デフレ圧力が続いている。
次に大きな影響要因は米中関係の緊張で、これが47%を占めた。
内需低迷を補うため、中国メーカーは輸出を増やしている。しかし、米国を含む貿易相手国との関係が思わしくなく、特に米国が中国製品に40%以上の関税を課していることが、輸出の伸びに脅威を与えている。
さらに過去10年間、中国が広範な産業政策を推進したことで、中国メーカーはもともと欧州企業が世界をリードしてきた業界、例えば工作機械、産業用ロボット、海運、自動車などで積極的に事業を拡大してきた。欧米企業にとって中国の地場企業はますます強力な競争相手となっており、激しい価格競争が複数の業界で利益率を圧迫している。
中国市場は欧州企業のグローバルな利益追求面でも重要性が低下している。調査対象企業の7割が、「中国市場のEBIT(利払い・税引前利益率)が世界平均を下回っている」と答えた。
市場の予測可能性がますます低下
中国市場の予測可能性と信頼性が低下し続けていることは、欧州企業にとって大きな不満材料だ。
中国政府は「外国投資企業のビジネス環境を改善する」と繰り返し約束してきたが、調査対象企業の63%が「昨年、規制や市場の障壁でビジネスチャンスを逃した」と答え、その割合は過去最高を記録した。
そして調査対象企業の44%が、「今後5年以内に自社が直面する規制上の障害はさらに増えるだろう」と予測する。
これらの調査結果は、他の外国商工会議所の一部調査結果とも一致している。最近発表された中国英国商会(British Chamber of Commerce in China)の提言書でも「市場参入にかかわる深刻な問題が依然として横たわっている」と指摘されている。
この提言書では改革が必要な分野として、中国における職業資格の相互認証の欠如、許認可制度、越境データ規制などが挙げられた。
人件費高騰の懸念はもはやなくなった
調査によると、過去1年間で中国のビジネス環境において明確な改善が見られた点が一つある。それは賃金上昇を懸念する中国進出欧州企業の割合が大幅に減少し、現在、賃金問題は企業にとって最も懸念の少ない事項の一つとなっていることだ。
かつて中国では住宅価格の急騰に伴って人件費も上昇の一途をたどった。しかし、このバブルは2021年に崩壊し、建築面積の減少で多数の雇用が失われ、失業者が増加し、結果として賃金水準が下がった。
賃金の横ばいまたは低下は、一方で中国国内における輸入化粧品やホテルの宿泊といった製品・サービスへの需要の低迷を引き起こし、デフレ圧力が根強く続いているのも事実だ。
(『日系企業リーダー必読』2025年6月5日の記事からダイジェスト)
『日系企業リーダー必読』は中国における日系企業向けの日本語研究レポートであり、中国の状況に対する日系企業の管理職の需要を満たすことを目指し、中日関係の情勢、中国政策の動向、中国経済の行き先、中国市場でのチャンス、中国における多国籍企業経営などの分野で発生した重大な事件、現状や問題について深く分析を行うものであります。毎月の5日と20日に発刊し、報告ごとの文字数は約15,000字です。
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